ケレンとは塗装する面に対する下地処理の全作業
いわゆる「下地処理」の一部で、不要な部分を削り取り綺麗に掃除をすることを指します。
どんなモノや場所を塗装するにも、このケレン作業の工程は必ず必要です。
しかし、塗り替え時に前回の塗装工事で明らかにケレンをせずに塗ってあるヒサシや屋根などは多数見かけます。
そんな現場では他にもいろいろと目に見えない手抜きがあるのだろう・・・と想像してしまいます。
ケレンの意味:語源
「ケレン」という言葉は建築用語と言うよりは、塗装職人の符丁(ふちょう)が少し一般名称的になってしまった言葉です。
クリーン→ケリーン→ケレーン→ケレンという事ですね。
そして、英語の【clean】の意味を調べて見ると、実際の塗装でのケレン作業にかなり近い意味が含まれている事が分かります。
- 〔不要なものを〕取り除く、削除する、駆除する
- ~を掃除する、~を清潔にする、~をきれいにする、~を洗濯する、~を消毒する
- 〔泥などで〕汚れていない、汚くない、〔汚れがなくて〕きれいな
- 混じりけがない、他の物質が入っていない
ケレンの重要性
上記のことからクリーンもケレンも、単に「掃除:綺麗にする」という意味だけでは無い事が分かります。
- 取り除く・綺麗にする、という「作業内容」
- 汚れていない・不要なものが入っていない、という「作業後の状態」
これを塗装に置き換えると、ケレンの意味と塗装におけるケレンの重要性がハッキリします。
ケレンの目的と作業内容
ケレンでしておくべき作業は以下の3つに分けられます。
- 削る・切り取る、といった「取り除く作業」
- 「目荒し」といって適切な範囲でわざと表面を凸凹にして荒らし「密着性を上げる」作業
- 掃く・吸い取る・吹き飛ばす・拭き取る、といった「掃除の作業」
外壁塗装に限らない事ですが、塗装全般でケレンが大切な理由は、下地との密着と仕上がりの美しさに関わってくるからです。
塗る面の下地がブツブツしていたら取り除き、剥がれないように凹凸を付け、塗れるように掃除をしておく。これがケレンの仕事です。
いくら塗装の匠が刷毛を持っていても、ケレンが出来なければ綺麗に仕上がらず、ハガレてしまうので、塗る技術より適切なケレンが出来る技術の方が重要なのです。
ケレンの作業内容
ケレンで行う作業は1つではありません。
細分化すると以下のようになります
- 清掃
- 汚れ落とし
- 塗装部分に付着した不要な物の撤去
- 錆び落し
- 密着性向上のための塗膜表面の目荒らし
清掃
塗装をする前の清掃には、最初の清掃と最後の清掃の2種類があります。
最初の清掃
最初の清掃は、以下の作業を行うための清掃で、いわば「作業前清掃」です。
ケレン作業を行う際に、周囲のモノの片付けや荒清掃をしておかないと後で苦労するからです。
「最後に掃除をすれば良い」という怠けた考えは、最終的に時間と手間が掛ります。
当然、塗装の仕上げも悪くなります。
最後の清掃
最後の清掃は「塗る」直前の清掃です。
塗装作業のベストな環境は、極論を言えば周囲を「無菌室」状態にしたいもの。
屋外であっても「塵ひとつ無く、無風の状態」がベストです。
実際にそうは行かないのは分かっています。
ですから、塗装する場所の近くには、とにかく「ゴミや塵」が無いように清掃・掃除をしなければなりません。
塗装は掃除
塗装の仕事は塗る事よりも「掃除」の方が大切…と言うと不思議に思うかもしれませんが、決して言い過ぎではありません。
前述の通り、ゴミだらけの場所で塗装の達人が塗ったとしても、乾く前に塗ったところがゴミだらけになってしまいます。
先ず塗る場所の周囲が綺麗な事が「塗る以前」に大切なので、掃除が出来ない塗装職人や掃除が嫌い、掃除を面倒がる職人は失格と言えます。
つまり、塗装職人であるからには、刷毛やローラーと同じように「掃除の道具」にも精通し、こだわりを持たないといけない…と個人的には思っています。
汚れ落とし
塗装前の汚れ落としには下記の3種類があります。
- 高圧洗浄
- 洗剤洗い
- 薬品洗い
- 水拭き・雑巾がけ
高圧洗浄
塗装面の汚れ落としで一番有名なのは「高圧洗浄」でしょう。
戸建て住宅の外壁塗装で、高圧洗浄で家をを丸洗いするようになったのは、1980年代からです。
余談ですが、最初に買った高圧洗浄機は当時で80万円もしました。
高圧洗浄では、塗装面に付着した砂ぼこりや、屋根や外壁にあるコケなどを洗い流します。
洗剤洗い
ニスを塗る場所ではあらかじめ洗剤などで塗装面を洗っておく必要があります。
(高圧洗浄は基本的に水道水で洗うので、塵やホコリは落とせても「洗剤が必要な汚れ」は水圧を上げても落とせません)
主に中性洗剤になりますが、油汚れなどを洗剤で洗うと思いの他汚れが落ちます。
特に人の手が降れる場所(ドアノブや枠廻りの近く)では、手の油汚れが付いています。
汚れをよく落としてから塗らないと、汚いままの下地がニスで透けて見えてしまいます。
当然、下地は綺麗にしてから塗らなければいけないのです。
薬品洗い
洗剤とほぼ同義ですが、薬品を使って洗わないと落ちない汚れもあります。
水拭き・雑巾がけ
特に内装の塗装に限られるでしょうが、ホウキや掃除機で掃除をしても足りない事もたまにはあります。
そんな時にはいっその事、ざっと床の雑巾がけをしてしまった方が早いのです。
よくある事なのですが、面倒がってチマチマやっているよりも、思い切って大きな作業をしてしまった方が早く綺麗に出来ます。
塗装部分に付着した不要な物の撤去
塗装をしたい部分に何かが付着している場合は下記のように結構あります。
- ツタなど植物の跡
- 剥がれてしまった塗料
- 塗膜に付着しているゴミ
- 荒れた表面の研磨
ツタなど植物の跡
ツタ植物が外壁に這ってしまうと撤去しなければ塗装が出来ません。
そして、ツタの跡はなかなか取れません。
少なからず残ってしまう事が多いので、色々な工夫をして跡が残らないようにケレンをします。
剥がれてしまった塗料
剥がれてしまった塗装の被膜はきちんと撤去しなければなりません。
きちんと撤去しないと段差が目立ち、その部分から再度剥がれが起きやすくなります。
塗膜の剥がれは2種類あります。
1つは「劣化により仕方が無いもの」もう1つは「施工不良によるもの」です。
塗膜の剥がれの種類
劣化により剥がれてしまった部分に関しては、劣化していない部分までが剥がれる事になるので、剥がれ箇所に限界があります。
しかし施工不良による剥がれの場合には、どこまでも剥がれてしまう可能性があるので、非常に困ります。
なぜなら、実質的に全ての塗装を剥がす事は非常に困難で現実的にでは無いからです。
ですから、施工不良で塗膜が剥がれている時のケレンでは、以下の事をきちんと行う必要があります。
- 剥がれの原因を解明する事
- どの程度まで剥がれるか(剥がすか)を判断する事
(どの程度まで剥がさないかを判断する事) - 依頼者に対して上記のことを解説し「剥がせない部分に塗装を行った場合、いつか剥がし残した部分から剥がれる可能性があること」をあらかじめ解説しておく事
この解説を省いてしまうと、後で剥がれた時にトラブルになります。
塗膜に付着しているゴミ
これから塗装をしようとする表面が既にブツブツしている事があります。
それは、前回の塗装でゴミが付着したまま塗られているためです。
そのまま何もせずに塗ってしまううのはよろしくないので、撤去した綺麗な面に塗装をしなければなりません。
例えば上記で剥がした塗装の被膜をきちんと掃除しないまま塗ると、それが風に流されてせっかく塗った部分にゴミとして付いてしまいます。
もちろん外部の塗装では、風に流されたホコリやチリが付いてしまう事があるかもしれません。
いずれにしても平らな面に塗装をする場合は、手のひらで撫でて突起物が無いようにしてから塗装するケレンが必要です。
荒れた表面の研磨
初めて塗装をする素材の表面に凹凸がある場合には、その表面を出来るだけ平らにして塗装をする必要があります。
新品の材木を塗る場合などが分かりやすいでしょう。
また、劣化で下地素材の表面が凹凸になってしまう事もあります。
そのような時には素材表面の凸部を削って、滑らかにしてから塗装を始めます。
錆び落とし
鉄部の塗装では、1つも錆びていない部分に塗装をする事はほとんど無いので、必ず錆落としのケレンが必要です。(大雑把な解説だと「錆落とし=ケレン」といった解説もありますが、錆落としはケレンの1つです)
鉄が酸化して錆びてしまうのは自然な事なので止められません。
酸化しないように表面を塗装で覆ってしまい、空気に触れないようにしておくことで錆の発生を防ぐのですがどんなに抵抗しても錆は出てしまいます。
錆びた鉄に再度塗装をする時には、当然錆びた部分を完全に撤去した方が良いのは当然です。
しかし住宅で使われている鉄部は数ミリ程度の厚みしかありません。
錆びた部分を削っていくと、穴が開いてしまう可能性が高くなります。
その際の「程度なケレンの質」は、道具選びや技術、時間の掛け方などにより変わります。
無駄なく効果的に行えるかどうか?が、職人の「技術」と言えるのです。
密着性向上のための塗膜表面の目荒らし
塗装を行う対象物の表面があまりにもツルツルしていると、塗った後で剥がれやすくなります。
例えば住宅に関するものだと、ガラスやアルミ・ステンレスなどや、塗装をしたばかりの上にもう一度塗りたい場合などがそれに当たります。
そのような「ツルツルの表面」に塗装をする時には2つの方法があります。
1つはケレンによる表面の目荒らしで、もう1つは適切な下塗り材の塗装です。
どちらも「密着力の強化」を行う事により剥がれないように塗装をします。
塗装と密着性
塗装をした後で「経年劣化」で剥がれてしまう事は、基本的には有ってはいけません。
(基本的に)というのは、下地そのものの劣化や、下地からの水分や水蒸気などの圧力・鉄部の酸化による錆びなどの「下地が原因の場合」も多々あるからです。
下地が原因でない塗装の剥がれというのは、セロハンテープが経年劣化で「糊っ気が無くなり剥がれる」ようになること、に似ています。
塗装では、そのように「糊っ気が無くなり剥がれる」事があってはいけないのです。
そこで塗装を行う時に重要なのが「適切な密着性」を確保すること、になります。
目荒らしとは?
外壁などのそもそも凹凸のある面を除き、外壁塗装の付帯塗装の部分では目荒しを行ってから塗装を行います。
わざわざ表面をザラザラにしてから塗装を行うことで、塗装対象の表面は文字のごとく【凹凸】になり、塗装の引っ掛かり(食いつき)が良くなります。
ケレンで使う道具・工具
「撤去」「目荒し」の作業に使うケレンの道具・工具
ケレンの道具の中で取り除く作業と目荒し作業に使う道具には、研磨系の手作業用の道具と、電気を使う電動工具、そしてこそぐ・すく・切る等の道具の種類があります。
こそぐ・すく・切るなど、取り除く系のケレンの道具
- 皮スキ
- カッター
- スクレーパー
研磨系の手作業用の道具
- サンドペーパー(紙やすり・水ペーパーとも呼びます)
- 布やすり
- マジックロン
- スコッチブライト等のナイロンたわし系
- ワイヤーブラシ
研磨系の電動工具
- 電動グラインダー(サンダー)
- オービタルサンダー
清掃作業用のケレンの道具
ケレンにおける掃除の意味は、塗る面の掃除になります。したがって、塗る面から落ちたゴミなどを掃除することはケレン作業の中には入らないイメージで、床等などの清掃は掃除の作業になる気がします。
塗る面をキレイにするための道具
- ラスター(ラスター刷毛)
- ウエス
- ブロア
- 掃除機
ケレンと塗り前
純日本語でケレンに相当する言葉で、「塗り前」(ぬりまえ)という符丁があります。
「塗り前」とはその名のごとく、塗る直前までの作業です。
両者の微妙な違いは下記のような感じでしょうか。
- 「ケレン」はどちらかと言えば、サビ落としなどの削り取る作業で使われます
- 「塗り前」は清掃や養生などの塗装の準備のイメージです
ペンキ職人では無く、似た仕事の漆塗りの業界においてこの作業をどのように呼ぶかは分からないですが、検索しても見つからないのでメジャーな言葉では無いのかもしれません。
ケレンとケレン味
日本語で「ケレン」と言えば「ケレン味の無い」の【ケレン】があります。
確かにケレンという言葉には「正当でない」「邪道な」といった意味があり、転じて「突っ張っている」「ささくれ立っている」といった印象があるかもしれません。
そんな共通の語感イメージがあり、「ケレン」が根付いてしまったような気がします。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事では下記の点についてまとめてみました。
この記事の内容が腑に落ちて早めに今の悩みが解決すると嬉しいです。
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