屋根の勾配(こうばい)とは、屋根の角度を表す建築の用語です。
勾配や寸は日常使わない用語ですが、屋根の工事をする時に打ち合わせや見積りで使う言葉なので解説します。
屋根の傾斜は「勾配」で決め「角度」は使わない
家の設計で屋根の傾斜角度を決めるときに、その「角度」は30度とか45度とかの角度では決めていません。
出来た屋根は結果的に角度で表す事は出来ますが、設計図に「この屋根の角度は○○度」とは書いていないのです。
図面に書いて決めるのは「勾配」です。
日本の建築では今でも「寸」や「尺」「間」が使われています。
屋根勾配の単位は「一寸法師」の【寸】です。
- 1寸は3.03センチメートル
- 10寸が1尺【30.3センチメートル】
「勾配」の表し方
屋根勾配の表し方は、水平方向(横)に10寸行ったところで、垂直方向(縦)に何寸上がったか?で数えます。
例えば10寸横に行き、6寸上がった場合は「6寸勾配」と表します。
(実際には「10」や「6」は【寸】でも【センチメートル】でも同じ事になります)
一般的な屋根の場合は4.5寸~6寸程度の勾配です。
1寸の1/10は1分(いちぶ)なので、4.5寸は4寸5分勾配と言います。
勾配の図解
勾配を図解で表してみましょう。
下図は6寸勾配の時の建物の断面図です。
横に10行ったところで上に6上がります。
各勾配の例
10寸の幅に対して何寸上がるか(下がるか)で勾配が決まります。
下記のように2寸・4寸・5寸・6寸・8寸・10寸…というように、縦方向の延びが大きいほど傾斜が急になります。(画像をクリックで拡大します)
勾配の図解まとめ
勾配を図でまとめて解説すると下記のようになります。
住宅の屋根の場合、屋根材ごとに適切な勾配がありますので規格に従って勾配が決まります。
屋根の勾配を図面で確認する方法
屋根の勾配は図面に書いてあるので確認が出来ます。
屋根の近くに直角三角形の定規のような形の横に数字が書いてある記号があります。
この図の場合は【6寸勾配】です。
図面に書いてある勾配の記号の種類
図面に書いてある勾配記号は、屋根の向きその他で下記のように三角形の向きが変わります。
(図ではどれも6寸勾配を意味します)
屋根勾配のマメ知識
屋根勾配の規則の理由
屋根の勾配が「10寸行って何寸か上がる」という決まりになっているのは、下図を見れば良く分かります。
この場合、屋根の垂木を載せる柱を勾配に合わせて上げて行けば、屋根を載せた時にきちんと平らになるのです。(この場合10行って6づつ上げれば良い)
屋根の場所で勾配が違う事も多い
家の屋根は、各面によって勾配が違う事も多いです。
特に北側が坂の下になる屋根では勾配がきつくなる傾向にあります。
下記の図面でいうと、4寸勾配側が南に向いていて6寸勾配側が北に向いています。
10寸が45度になる
10寸勾配は直角二等辺三角形になるので角度で表すと45度です。
専門用語にはなりますが、10寸勾配の時は特別に【矩勾配(かねこうばい)】と呼びます。
「矩」という字は音読みだと「ク」、訓読みだと「さしがね・のり」と読み、直角(定規)の意味があります。
10寸(矩勾配)以上の急勾配屋根
3階建ての住宅では、10寸以上の勾配がある屋根面をよく見かけます。
隣接している家への採光を確保するために、3階の壁を削って屋根にしているケースです。
図で解説すると下記の場合、三角形の横側が【10】で縦側が【12.5】です。
縦側の数字は必ずしも【10】とは限りません。
縦側の数字が横の数字より大きければ、45度の矩勾配よりも急勾配の屋根という事になります。
急勾配屋根の実例
このように外壁なのか屋根なのか?といった感じですが、垂直に近くても雨にさらされる斜め部分は屋根になります。
また、ロフトがある家ではその部分の天井が高くなります。
ロフトは屋根裏の空間なので、広くしようと思うと必然的に屋根が高くなり急勾配になります。
急勾配屋根の図面
上記のような急勾配屋根の図面はどのように書いてあるのでしょう。
急勾配の家では、全部の面が急勾配ではなく、一部の屋根だけが急勾配になっている事が多くなります。
屋根材により必要な勾配
それぞれの屋根材には必要な勾配(最低勾配)が決まっています。
その勾配より傾斜が緩いと雨漏りの危険がある傾斜の事です。
一般住宅の屋根で使われている屋根材とその最低勾配・一般的な家での勾配を表にまとめました。
各屋根材により屋根を留める方法や雨漏りに対する構造が違うので、それぞれの屋根材で勾配の自由度が違うのが分かります。
屋根材の種類 | 最低勾配 | 一般的な勾配 |
---|---|---|
金属 | 1寸以上 | デザインにより垂直までと自由度が高い |
薄型スレート | 3寸以上 | 主に5.5~6寸だが12寸等の急傾斜も可能 |
瓦 | 4寸以上 | 主に4~5.5寸が多い(急傾斜は不可) |
屋根塗装をする時に関係してくるマメ知識
勾配がきつくなると屋根面積が増える
屋根の傾斜がきつくなるとその分屋根面積が増えていきます。
屋根面積の増え方を下記の表にまとめてみると、急傾斜になると増加率が上がっていくのが分かります。
勾配 | 角度(度) | 1辺の屋根の長さ |
水平 | 0 | 1.000 |
1寸勾配 | 5.9006 | 1.005 |
2寸勾配 | 11.3099 | 1.020 |
3寸勾配 | 16.6992 | 1.044 |
4寸勾配 | 21.8014 | 1.077 |
5寸勾配(※) | 26.5650 | 1.118 |
6寸勾配(※) | 30.9638 | 1.166 |
6寸5分勾配 | 33.0239 | 1.193 |
7寸勾配 | 34.9920 | 1.221 |
10寸勾配(矩勾配) | 45度 | 1.414(ルート2) |
12寸勾配 | 51.3401 | 1.562 |
(※)5寸~6寸勾配の屋根が一般的に多い
6寸5分以上の屋根塗装では、屋根足場が必要
「一般的な屋根」の場合には、「一般的な建築職人(塗装職人)」なら普通に歩いて登り、作業が出来ます。
6寸勾配までの屋根なら特に問題無く屋根の塗装が可能です。
両手に何も持たず、ただ屋根の上を歩いて登るだけなら7寸勾配でも行けるかもしれません。
しかし、何らかの道具を持って作業を行う場合には、安全管理上の面でも6寸5分勾配からは屋根に足場が必要になります。
まとめ
屋根の勾配は、建物のデザインや室内空間(屋根裏の空間)に関わる重要な部分です。
屋根勾配の急な家は、お城のように素敵な外観になりますし、ロフトや吹き抜けのあるお家にも出来ます。
ただし、屋根を塗装する際には屋根足場が必要だったり、屋根の面積が増える事があるります。
メンテナンスの際に費用が掛かってしまうのには仕方がない部分かもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事では下記の点についてまとめてみました。
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